東京地方裁判所 昭和42年(ワ)6327号 判決 1969年3月01日
被告 平和相互銀行
理由
ウエルスバツハ会社が被告銀行に対し、昭和四一年五月四日付内容証明郵便をもつて、同会社の被告銀行銀座支店に対する本件預金債権を被告大谷に譲渡する旨の通知をなし、そのころ、右通知が被告銀行に到達したことは、いずれも当事者間に争いがなく、《証拠》を総合すると、ウエルスバツハ会社は、昭和四一年四月一五日、不渡手形を出して倒産したこと、当時、同会社の債務総額が、約一億九千万円あるのに対し積極財産としては、銀行預金、敷金、機械等僅少のものがあるにすぎず、これがため、ウエルスバツハ会社は、残余財産を債権者に公平に分配するため、同会社の被告銀行に対する預金の中から、将来割引手形の落込みによる同会社の被告銀行に対する債務が発生したときは、これを控除することを条件に、本件預金債権を被告大谷をして保全し、かつ管理せしめる目的のもとに、信託的に同被告に譲渡したものであることが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
原告は、本件預金債権の譲渡は、その特定もなされておらず、その額も未確定であるから、無効である旨主張するが、前認定のとおり、本件預金の中から将来割引手形の落込みによるウエルスバツハ会社の被告銀行に対する債務が発生したときは、これを控除することを条件にして、本件預金債権を譲渡したのであるから、将来本件預金債権が減少することは考えられるが、何ら債権の特定に欠けるところはないし、このように減少することのありうる債権といえども譲渡は可能であるから、原告の右主張は採用することができない。
原告は、本件預金債権の譲渡は、ウエルスバツハ会社が差押えを回避するため、被告大谷と通謀してした虚偽の意思表示に基づくものであると主張するが、前認定の事実に徴し、通謀による虚偽表示とは認め難く、原告の右主張は採用することができない。
原告は、本件預金債権の譲渡は債権者を害することを目的とするもので、法律上許されない無効のものである旨主張するが、全証拠によるも本件預金債権の譲渡に債権者を害する意図は認められず、本件のような預金債権の譲渡が強行規定に違反するものということはできないので、原告の右主張は採用することができない。
右事実によれば、原告主張の本件預金債権に対する差押および転付命令が被告銀行に送達される前に、すでにウエルスバツハ会社から被告大谷に対し、本件預金債権が譲渡せられたのであるから、右命令はその効力を生じなかつたものといわなければならない。したがつて、その余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求は理由がないものというべきである。
よつて、原告の本訴請求はいずれも失当としてこれを棄却する。